コラム
Column山をも動かす リガ日本プログラム
文化交流が意識に広がりと幅をもたらすと私は常に考えています。これは観客だけでなく出演者にもいえることです。これは文化的理解において極めて重要な点であり、文化が異国間の相互コミュニケーションを培うことを可能にする手段でもあります。また私は、称賛に値する日本人舞踏家や若い現代芸術家やダンサーを鑑賞したり、お仕事をともにすることを個人的に切望しています。そして素晴らしい日本人芸術家を地元のオーディエンスに紹介していくことの必要性も感じています。私がラトビアで日本ダンスプログラムといったイベントの実現に注力しているのはそのためです。ときに山をも動かすような苦労や努力も、 価値があると感じられます。EU・ジャパンフェスト日本委員会という素晴らしく信頼のおけるパートナーの存在のおかげで、それが現実となったのです。そして非常に頼もしく、私の申し入れに快く応じてくれたフェスティバルのチームにも感謝しています。今年のコンテンポラリーダンスフェスティバル「TIME TO DANCE」の会期中、ラトビアの観客はこれまでにない、議論を巻き起こす日本人パフォーマーの舞台を体験しました。これはラトビアのダンス史上初めてのことです!私はコラボレーションの創作プロセスを体験したり、マスタークラスや舞台を満喫しながら、心からの幸せを感じました。
ラトビア有数のダンス評論家ディタ・エグリテ氏は、当フェスティバルに関する記事でこのように述べています。
「このフェスティバルにおける日本の存在には、二重の意味があります。最大の勝者は明らかにオーディエンスだったといえるでしょう。彼らは極めて優れたプロフェッショナルなパフォーマンスを鑑賞する機会に恵まれたからです。」
舞踏の巨匠・室伏鴻氏の存在は、当フェスティバルで特別な精神を創り上げました。ディタ・エグリテ氏は室伏氏のソロ作品に寄せた思いをこう表現しています。「室伏鴻のパフォーマンス『Ritournelle』は、舞踏と真たる日本人のパフォーマンスの芸術的真髄を目の当たりにする機会をもたらしました。東洋文化では理性ではなく身体的思考や意識がより重視されているという事実と鏡合わせに、私の身体は直感的かつ本能的に室伏鴻の身体が紡ぎ出す物語へと引き寄せられていったのです。」
フェスティバルの開幕イベントが美しい中世の教会の中庭で行われました。鈴木ユキオ氏率いるダンスカンパニーによる『Waltz(ワルツ)』は、ヨーロッパ芸術のイメージ漂うこの舞台で、観客を日本人の肉体に漲る情熱へと誘いました。フェスティバル終了後、鈴木ユキオ氏はこう語っています。「教会の中庭でのパフォーマンスは私にとって素晴らしい経験となりました。とても良い雰囲気で、私達のパフォーマンスをより力強く美しく見せてくれました。またこのフェスティバルは、たくさんのアーティストや観客がコミュニケーションを交わせる場でもあります。私達は互いの作品を鑑賞し合い、自分達の表現について語りました。これが次のプロジェクトにつながるものと確信しています。」
また観客は、様々な分野で活動する日本のダンサー、梅田宏明氏のパフォーマンスに深い感動を受けました。表現性の強いマルチメディア映像とともに、驚異的なダンステクニックが披露されました。攻撃的な広告、コンピューターグラフィック化された人間の動き、そして悟りを開く感動的な穏やかな瞬間など、こうした要素が、現代の日本のイメージを構築していることをはっきりと見て取れます。ディタ・エグリテ氏はこのように述べています。「梅田宏明による二つのパフォーマンスは、日本の特徴が現代のテクノロジーを駆使したパフォーマンス手法の持つ可能性といかに巧みに結びついているかを実証しています。ビデオとともに繰り広げられる仮想プレイには極めて的確なニュアンスが存在し、私の身体はこの結びつきを肉体的かつ感情的に体験したのです。」
フェスティバル中に世代の異なる日本人アーティストが観られたことは、大きな成功だったといえると思います。比較的若い参加者として美術作家の松延総司氏が、舞踏家の大御所である室伏鴻氏とラトビア人ダンサーである私シモーナ・オリンスカと共演しました。このプロジェクト『Z.I.M.E.』で、私はアーティストとして関わりながら、室伏鴻氏の豊かな芸術体験を共有できたことに感謝の念を表したいと思います。これは私にとって特別な出会いとなりました。室伏鴻氏の個性を通じて、私の人生経験や芸術的理念とは異なる室伏氏が画した一時代がはっきりと想像でき、それはときに挑戦的で、またときには非常に身近に感じられました。室伏鴻氏からは芸術的理念がいかに深奥であるべきか、そしてダンスにおいて焦点と誠実さと明瞭な身体言語をいかに維持すべきかなど最も大切なことを学びました。また松延総司氏は、このコラボレーションに当たっての自らの芸術的問いについてこのように述べています。「物語や装飾を否定するダンスに、物語や装飾を添えることはできるのか?私はこの問いを解き明かすべく、新しいタイプのパフォーマンスを生み出すことを今回の滞在の目的に定めました。そして最終的に完成したのが『光だけで作られた立方体の図形』で、この映像は宙に浮かんでいるように見えます。これは『オブジェとしての装飾と照明としての装飾の中間』であり、『舞台上の図形と地面の中間』といえます。」
また室伏氏のマネージャー渡辺喜美子氏は、このフェスティバルでの経験についてこのように触れています。『私達はこのフェスティバルに参加できたことを光栄に思います。私達を日本から招聘するためにご尽力くださったフェスティバル関係者の皆様に大変感謝いたします。私にとってラトビアを訪れるのはこれが初めてで、多くの印象を受けました。フェスティバル主催団体は素晴らしく、良い観客にも恵まれました。彼らは日本からやって来たパフォーマーやダンサー達に寄り添う気持ちを示し、会場には美しいひとときが生まれました。』
美術作家の松延総司氏は、リガ旧市街の美しい風景を望むダウガヴァ川の畔にあるNOASSという素晴らしい芸術施設で開催されたフェスティバルのクロージングイベントで、ラトビア人ダンサーと振付師との共演も行いました。松延氏が二つのコラボレーションに向けて多大な力を注いでいる様子が伺えました。彼は膨大な画像を制作し、ラストでは出演者として登場し、自らの作品『Humming』で素敵なユーモア溢れるパフォーマンスを披露しました。この他にも、私達は地域在住の日本人の方々を招いて書道や寿司作り、折り紙、日本語など日本に焦点を当てたマスタークラスを催しました。このイベントは結果としてラトビアと日本の人々を結ぶ最高なコミュニケーションの場となり、その晩を通じて実に素晴らしく、気軽で晴れやかで愉快な雰囲気に包まれました。
私達は、鈴木ユキオ氏や室伏鴻氏と今後コラボレーションを続けていくに当たり、構想やアイディアを抱いています。また梅田宏明氏と鈴木ユキオ氏は、将来ラトビアのコンテンポラリーダンスの学生達との協力にも関心を寄せています。こうして私達はこの山を動かし続けながら、いつしか軽快で色鮮やかな蝶へと変身していくのです。